9/11、米津玄師の10thシングル「馬と鹿」がリリースとなりました。
左:ノーサイド盤、右:映像盤
リリースに先駆けてイベントが行われたため、表参道ヒルズ 本館B3F スペースオーまで足を運びました。ディスクレビューの前に少しだけ感想をお伝えしたいと思います。
「鏡の上映会」と題されたこのイベントは2日間に渡って行われました。初日朝にはMVが解禁され、そのMVを大きなスクリーンで観ることが出来るというもの。
ちなみ前回のシングル「Flamingo / TEENAGE RIOT」のときのイベントはこちらです。
初日の9/2(月)は17:00〜20:00、9/3(火)は11:00〜19:00となっており、筆者は2日目の14:20〜の回に参加しました。
この整理券は両日9:00〜配布開始予定だったんですが、2日目は8:15〜に繰り上げてました。朝の表参道はそんなに人通りが多いわけではないですが、結構列が長くなっていたので...
整理券を配布されると同時に、手首にピンク色のテープを巻かれました。入場時にライトで照らして確認していたので、整理券を受け取った本人かどうかの確認用だったみたいですね。
集合時間に階段に整列し、呼び出されて整理券とペーパーリストバンドの確認。
入ってすぐのところにこんなものが。
イベント名の通り鏡。とりあえず写真撮ってみた
少し待っているとスタッフの方から「写真は可、動画は不可」という旨の説明を受け、中に案内されました。
様々な形の鏡が貼り付けられた道を通っていきます。
いやこれ、他人をうつさずに撮るの無理では...?
進んでいくと全面鏡に覆われたスペースにたどり着く。
角に置かれた灯りが美しい
スタッフさんからの注意事項説明があり、いよいよMVの上映。
全面に映し出される米津玄師。
後ろに倒れ込むシーン、椎名林檎の"神様、仏様"っぽいなー、などと考えながらも、荘厳な雰囲気のMVに見入る。
あっという間に終わってしまったなと思えば、もう一度流してくださると言う。
しかし今度は「後ろに下がって鏡にうつるように立ってください」との指示が。
後ろに歩くと床に線が引いてあって、そこより下がると画面内に入れるのだという。
こんな感じでぎゅっとしてました
二度目の上映開始。
画質が悪く、ぼかしを入れているため見づらいのが申し訳ないんですが、この映像に入り込んでいる感覚が新鮮で面白かったです。
と同時に、どこにいても被写体になる恐怖がありました。
これは恐らくこの上映会の趣旨とは離れていると思うので1つの感想として読んで欲しいのですが、入場時の鏡にも、通路の鏡にも、上映場所の鏡にも自分が写し出されてしまうのです。恐らく誰かの写真フォルダに筆者の姿が写っていることでしょう。自分で撮っていても感じましたが、あの空間で他人を含めずに写真を撮ることはほとんど不可能だと思います。
加えてこの恐怖感は「鏡の上映会」独特のものではなく、日常的に感じているものでした。
先日首都圏を直撃した台風は交通機関に大きな影響を与えました。その状況を伝えようと無作為に写真を撮る人々。他人の顔がしっかり写っているにも関わらず、ぼかしもせずにネットにアップして「〇〇駅入場規制で入れない」「〇〇線止まった」などと書き込む。
米津さんに限らず、他のアーティストでもそうですが、ライブのときの物販列。「こんなに並んでいる」ということを伝えようとしてか、もしくは「今ここにいますよ」という主張か。いずれにせよ、知らない人の顔が沢山写った写真をそのまま上げている人は多いです。
並んでいるときにも油断出来ないカメラ攻撃。
でもこの手の話題は性善説と言いますか、各々のモラルや常識に委ねるしかないというのが現実だと思います。
被写体側としては写りこまないように極力気を付けるしかないし、撮影者側としては何かを特定出来るようなものは写さない、もしくはぼかす。お互いが容認している場合は例外ですが、そうでない場合は本当に配慮が必要だと改めて感じました。
相当主題からずれてしまってすみません。上映会の雰囲気レポでした。
さて、シングルの内容も少しだけ。
馬と鹿
表題曲"馬と鹿"はTBS日曜劇場「ノーサイド・ゲーム」の主題歌として制作され、8/12より各配信サービスで先行配信されています。
MVの監督は"Lemon"や"Flamingo"も手がけた山田智和氏。鮮烈で美しいMVを作る方という印象があるのですが、あいみょんや水曜日のカンパネラ、サカナクション、Base Ball Bear等のMVも担当されています。
楽曲についてですが、"Lemon"と同様にイントロがないことにまず意識が行きました。ドラマのいい場面で米津さんの歌声が切り込んでいくのが、物語を盛り上げる後押しとなっています。
米津さんは使える音の幅に多様性があって、日常的に耳にする音や会話すらも楽曲に落とし込んでしまうような柔軟さが特徴であり彼の武器だと思うのですが、この楽曲は割とシンプルというか、王道な楽器を用いていて歌い方もストレートな気がします。
それよりコードやメロディがえぐい。《何に例えよう》からのところ、常人には理解出来ない展開で思わず笑ってしまいました。
米津玄師が国民的アーティストとまで言われるようになりながらも、こういう一癖も二癖もあるような楽曲を作れるのが凄いです。
"馬と鹿"に限らず、米津曲の構成は決して正統派ではないと思うのです。ちょっと顔を顰めてしまうようなコードとか、気持ちが暗くなるようなサンプリングとか、真顔で織り込んでくるんです。それでも最終的に大衆に受け入れられる音楽を構築できるのは、以前から言っているように米津さん自身がとても冷静で、自分の置かれている立場を俯瞰で見ることができているからだと思います。
海の幽霊
実質両A面シングルと言っていいと思います。映画「海獣の子供」の主題歌として書き下ろされました。6/3に配信リリース済。
元々原作のファンだったという米津さん。10代の時に「もし映像化されるのであれば歌を作らせてほしい」とぼんやり考えていたことが実現するなんて凄いですね...しかも今回はオファーが来たのではなく自らやらせてほしいと言いに行ったそうで!熱量と愛情の大きさに震えます。
"海の幽霊"のインタビューは読む度胸が熱くなってしまうのですが、ここで語られている「リアレンジ中に亡くなった親友」というのは今年4月に急逝したヒトリエのwowakaさんのことだと思っています。
映画も観てきて様々な感想を持ちましたが、一番強く感じたのが海に対する畏怖の念でした。日常を超えたスケールの大きさにはどこかこの世界のことではないような恐ろしさすらあって、海岸線が日常・非日常の境目になっているのではないかとも感じました。
この作品は生命の誕生にフォーカスしておりこれを海岸線で分けるならば、陸側が生きている世界、海側が生命を循環させる世界。海を「死の世界」としなかったのは、そんなにシンプルな話ではないと思うからです。大海は未知の世界。だからこそ陸の世界よりも美しい生命の力が秘められているような気がしています。
wowakaさんも海の向こう側へ行ってしまったけれど、ふとした瞬間にこちら側に戻ってくるような気がしてなりません。海辺に置いた椅子に座って、こっちに向かってピースしてそうだもんなあ。
原作のストーリーがかなり概念的・抽象的な印象があるのですが、まさにその雰囲気を纏った楽曲だと思います。コーラス含め色んな音を重ねていて実態が掴みづらいなと感じるのですが、これがまさに歌詞にも引用されている《大切なことは言葉にならない》ということなのでしょうかね。聴くというよりも浸りたい、身を寄せたい、そんな1曲。
来年2月から始まるツアー「HYPE」、最終日はwowakaさんの命日です。これが偶然なのか意図的なのか、きっと真実が明かされることはありませんが、何か特別な縁を感じずにはいられません。
でしょましょ
B面に鬱曲入れてくるの好きだけど、"馬と鹿"も"海の幽霊"も割と荘厳かつ変化球なので明るめ曲でも良かったんじゃないのかな、と個人的には感じました。
笑い声のサンプリングが特徴的で、毎回首が絞まりそうな思いをしながら聴いています。笑い声だって様々なのに、よくもまあこんなに冷や汗かかされるような笑い方ばっかり集めたものですね。全然慣れません。なのに何回も聴いてしまう。
《令月にして風和らぎ》は新元号・令和の引用元である万葉集の「初春の令月にして、気淑く風和らぎ、梅は鏡前の粉を披き、蘭は珮後の香を薫す」からですね。
令和って言葉、柔らかくて良いですよね。改元して半年も経ってないのにもう順応してきた。
言葉の選び方は相変わらず美しいけれど、こういう自虐曲も書けるのはやはり彼も人の子なんだなと再認識。
映像盤限定 「米津玄師 2019 TOUR / 脊椎がオパールになる頃」 LIVE Teaser
映像盤に収録された、前回のツアーの模様を収めたティザー映像。
米津玄師が自身2枚目となる映像盤を約18分のダイジェスト版として出すことになった経緯は全くわからないけれど、本人の意思も多少なりともあるんですかね。
人間の所業だからノーミスのライブなんてどのアーティストでもないだろうけど、演者側から見直して納得いかない内容は削ったのかなとも思います。「脊椎がオパールになる頃」でそんなに大きなミスをしていた記憶はないけど、フルを出すには何かが足りないと感じたのでは。収録曲数どころか、1曲たりともフル収録がなかったしね。
米津さんはライブでも全く歌唱力がブレなくて凄いからもっと映像で観たいし、すってぃー・中ちゃん・堀さんのサポートも眺めたい。
徐々にでいいから収録曲増やして欲しいな、とこっそり願っておきます。
米津さんと大泉洋さんの対談も是非↓
お付き合い頂きありがとうございました。
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