鯉の滝登り

好きなものを、好きなように、好きなだけ。

THE KEBABS インタビュー

バンドというものは解散・脱退・休止と常に隣合わせで、継続するにはあまりに脆いものであると最近強く感じています。それでも長く続いているバンドはいくつも存在しており、必ずしも国民的・大衆的とは限りません。

 

「彼らがライブをやるならば」と足を運ぶファンが一定数いるだけで、バンドというコミュニティが続いていく1つの要因になると考えています。加えて、様々な側面においてバンドが社会現象を巻き起こす、とまではいかずとも界隈に新しい流れが生まれれば、規模の大小に関わらずコミュニティはより盛り上がっていくのではないでしょうか。

 

 

THE KEBABSはこれからまさに新しい流れを作っていく役を担っていくバンドだと感じています。

 

正直な所、結成の一報を目にした時は何よりも不安が大きかったです。

色んな形で何年も何度も見てきた4人が集まって新人バンドの仮面を被っていることに違和感があり、彼らの交流の濃さを上辺ながらも見ているからこそ「仲良しこよしでバンドを組んで大丈夫なのか」「この人たち何を企んでいるのだろう」という先の見えない怖さもありました。

 

いざ蓋を開けてみればそんな心配は杞憂に過ぎず、シンプルな楽しいバンドだったことに安心感と納得感を覚えました。

 

 

 

知らないバンドのライブに行くとき、多くの人は「予習をしなければ」と考えます。興味を持って音源を探すことは素敵なことですが、曲を覚えることだけに固執しすぎてしまうと単純にライブを楽しむことは二の次になってしまいます。

 

音源をリリースしていない曲すらどんどんセットリストに組み入れるTHE KEBABSは、そんな文化にも新しい価値観を提示してくれるのではと期待しています。

 

もちろんこれは普通のアマチュアバンドがやっても上手くいくとは限りません。彼らはいくつかのミュージシャン人生を経て、THE KEBABSとしてまた新しいフェーズに移行しているからこそそれが体現出来ています。

 

 

 

この4人は一体何を企てているのか、上辺だけではわからないことを知りたい。そんなことをぼんやり思っていた中、彼らがインタビュー企画を行うと知りました。

 

もちろんプロによるインタビュー記事を読めばバンドを知ることは出来ます。それでも機会があるならただの客の一人である自分が質問を投げかけたい。遠くから思うだけなら誰でもできますが、挑戦しなければ何も始まりません。

 

 

決意を固めて応募したところ、佐々木さんと田淵さんにインタビューをさせていただけることになりました。素人にこのようなチャンスを頂けて恐縮ですが、THE KEBABSについて少しでもお伝えできればこの上ない幸せです。

 

 

 


ーTHE KEBABSが始動して約1年が経ちました。ワンマンや対バンを通じてライブに対する考え方や意識の変化はありましたか?

田淵「ライブってステージに立ってでかい音出すだけでいいじゃん、というのがより明確な確信になったなと思います。ステージと客がインタラクティブに何かを投げ合うみたいな関係性って今当たり前みたいになってるけど、少なくともロックバンドにおいてそれを作ることを目的にするのは間違いだと思います。目的にしてはいけなくて、『バンドやってる』っていう事実だけあればあとは全部副産物。THE KEBABSはただ楽しくやるだけのバンドのつもりではありますが、そんなことを再確認できるライブができていて嬉しいです」

 

 

ーそれぞれ付き合いの長い皆さんが実際に同じバンドメンバーになってみて、新しい発見はありましたか。

佐々木「田淵さん。彼にとってベースのピック弾きは音楽的な意味で新しい挑戦だと思うけど、リード・ヴォーカルを取ることやライブでちょっとしたMCをすることは『佐々木の喉の負担を和らげるため』ということで消去法的にやっているに過ぎない。だけど『必要は発明の母(だか父だか)』な訳で。

“恐竜あらわる”のデモは俺にメロディーを伝えるために彼が歌ってくれていたんだけど、これもう俺が歌い直す必要ないじゃん、っていうくらい良い感じのヴォーカルだった。

歌い分けについては『これは佐々木が大変そうだから俺も歌うね』って言ってくれる『TBCの優しさパターン』もあるし、“オーロラソース”の2番みたいに俺から『ここ歌ってもらっていいすか?』と投げかけて 『TBCの優しさにつけ込むパターン』もある。なんにせよ素敵なものが聴けるんだから俺の喉への気遣いに感謝だよねと思う。俺の喉ありがとう。

俺の喉への気遣いによって彼がMCすることで、ライブ中にその場限りの曲を作るってこともできる訳だし。

 

人生には『昨日までサングラス似合わないと思い込んでたけど、いざノリでかけてみたら結構似合っちゃった』的なことは結構あって、そこで大事なのはノリだし、『そのサングラスを基準にして着たことのない服をさらに買ってみる』みたいな進展もある訳で、ケバブスは軽いノリで色々トライすることに面白さを感じる。

 

新井さん。ヤング・ギター誌的なタッピングなりスウィープなりのスキルと、ブラック・サバスとかMC5とかAC/DCとか国籍を超えた『シンプルなパワー・コードが似合う大文字のロック』への愛と、プロデューサーとして曲全体のサウンドを技術的に取りまとめる能力と、そして純粋に印象深い綺麗なメロディーと。

それらはみんなserial TV dramaの時から変わらない彼のキャラクターだけど、同じバンドのメンバーとして“まばゆい”をカバーしたり“メリージェーン知らない”を録音したりすると、いかに彼が特殊なミュージシャンなのかを強く感じられる。

“メリージェーン知らない”の、ずっと微妙な半音で止まり続ける気持ちいいんだか気持ち悪いんだかなヴァースから超ポップなコーラスに雪崩れ込む和音の展開とか、シンプルだけどめちゃめちゃ変だし。

変とか謎って最高だなっていつも思ってるけど、それを確信させてくれる。

ミックスやマスタリングの時に取りまとめてくれるんで、ケバブスのサウンドが異常に低音出てるのとかは彼のセンス。バンド音楽であまりない新しい音像を発見してると思う。

 

浩之さん。彼とは昔から仲良かった訳じゃなくて、お互い存在は知ってるっていうくらいの関係だったから、一緒に演れば演るほど全部新しい発見。

SANABAGUN.の素晴らしいドラマー澤村一平とも『浩之さんヤバイ』っていう話をしたことあるんだけど、めちゃくちゃぶっ叩いてるのに音もビートも潰れないですごく気持ち良く転がっていくっていう稀有なドラマー。

ケバブスの作家3人からフレーズを無茶振りされても『出来ない』って言ってるの聞いたことない。

スタジオ盤は10曲全てが機械によるリズムのガイド(クリック)なしで2テイクずつくらい録音しただけで終わったんだけど、その事実が信じられないようなキマってるビートが記録されてると思う。

“ホラー映画を観よう”のアウトロのドラミングとかどうなってだかあんまりよく分からないけどすごいのは分かる。もし分かってもあんな風にプレイできないことも分かる。

ケバブスとして最初にスタジオに入った時のセッションで生まれたフレーズがいくつかあって、それらを礎にして出来た曲(“すごいやばい”とか“THE KEBABSは忙しい”とか)があるんだけど、それは何よりも彼の音楽的な反射神経の鋭さが原動力だと思う。

パッとギターやベースのリフを聴かされた時に速攻で出てくるビートのパターン、それをいきなりバッチリ演奏するスキル、毎回びっくりするし、これならいくらでもセッションで曲できちゃうわなって毎回新鮮な気持ちになる」

 

 

ー今回のインタビュー企画やライブ撮影許可、「今日のTHE KEBABS」をはじめとした積極的なSNS利用など、様々なトライを重ねながらバンド活動をされているように感じます。やってみての手応えや更なるアイデアの収穫はありましたか。

田淵「『今日のTHE KEBABS』はユーザーが文字より写真より動画を見るという時代に入ってくるのかなと思ってまして、その準備実験といったところでした。といったように『ユーザーにとって気持ちよい世の中になるように』工夫を考える、というのがこれらの施策の根本にある考えです。長く続いてきたなんとなくの不文律だったり、法律の解釈においてどれを正解にしていいのか自分をはじめ誰もあまりわかってないことだったりと超えなきゃいけないハードルが結構あるなというのが感触ではありますが、アイデアはいくらでも出てきます。例えばセットリスト公開というのもライブを切り抜いた動画で短くまとめる、というのは面白いと思うんですがねえ」

 

 

ーTHE KEBABSの楽曲は音源がリリースされていないものも多い中、初めて聴く曲でも楽しく踊れることが特徴だと考えています。歌詞や曲を書くにあたって特別に意識していることはありますか?

佐々木「俺は結成当初は特に意識してなくて、録音してないけど“テスト・ソング”とか“Cocktail Party Anthem”とか割とちゃんとヴァースとコーラスの歌詞があるものを作っていた。

けどあんまり真面目なストーリーを描いてヴァースとコーラスの歌詞を書くと、たまにしかないケバブスのライブのために思い出すのが面倒くさいってことに気づいて。

“THE KEBABSがやってくる”みたいに『まあこれくらいなら思い出せるでしょ』『最悪忘れてもその場で、違うけど良い感じのライン、パッと歌えるでしょ』と思えるものを書く、っていう暗黙のルールが芽生えた。

でも制約っていうのはとても大事で、『ハンターハンターの念』のように、制限を設けることでむしろ限られた条件の中でベストを尽くそうとするから、表現に独特のパワーが生まれることもある。

だからケバブスの歌詞と曲はこの1年間で作れば作るほどシンプルになり、辿り着いた場所に歌詞がたった2行の“猿でもできる”があった。

それが結果聴いてる方もすぐ覚えられるもの、っていう魅力になっているんだと思う。

ただし、あくまで暗黙のルールだから、そういうものを作ろうって打ち合わせとかしてないし、今後もこのスタイルで行こうねとか決めてない。

アルバム出てツアーしてるうちに、歌詞や曲を書くにあたって意識することは変わってくと思う。

それが楽しみだし、楽しみが増えるように意識している。

その方が楽しいから」

 

 

ー2月26日にライブ盤のアルバム「THE KEBABS」がリリースされます。demoCDとして既に音源化されている曲もあれば「THE KEBABS 録音」で初めて披露された曲もありましたが、収録のラインナップはどのように選んだのですか。

田淵「10曲入りであること。流れがいいものであること。まあまあ新曲があること。このあたりを気にしました。長いアルバムが好きじゃないのでこのバンドのスタンスで10曲30分というのは最高かなと。アルバム構想のタイミングでは“恐竜あらわる”も新曲状態だったので“オーロラソース”だけが新曲扱いになるのかな。意図的に入れずにライブでのみやろうかなと思った曲はありましたがそれ以外は楽曲の流れ次第でセレクトしていった感じですね。demoCDのやつはyoutubeにある曲の優先度は下げました。youtubeで聴ければよかろうと思ってセレクトしましたけど、サブスクもあるにこしたことはないと思うので、検討します」

 

ー今後の活動方針に関して、現時点で考えていることはありますか。

田淵「まずは『ライブをやる』というロックバンドとして至極当たり前のことをどれだけ自由に柔軟に頻発できるかはこだわっていきたいです。佐々木は歌う人間なのでa flood of circleには絶対迷惑をかけないようにライブできる期間は限定させたいですが、普通のブッキングだろうがなんだろうが飲み会ついでにフラッとやりにいく、そしてライブやって飲む、みたいなのが個人的な理想ではあります。バンドを大きくしていこうという欲は全然ないです。好きな時に好きな様にやるというのがバンドも観に来るやつも共通認識としてできていればそれだけでこのロックバンドの意義は確固たるものになると思います」

 

 

佐々木さん田淵さん、お忙しい中インタビューにお答え頂きまして本当にありがとうございました。関係者の皆様もアマチュアの人間相手に優しく応対してくださって感謝しかありません。


質問を投げてから「こういう内容を聞けば良かったな」「聞き方が変だったな」など反省もあったのですが、厚みのある回答をくださったおかげで記事として形を成すことが出来ました。長いこと応援しているミュージシャンのお二人とこうして言葉のやり取りをさせてもらえたのはなんとも幸せなことです。

 

 

今回のインタビューにおいては「ロックバンドの内側を知りたい」というテーマを持ち、質問を構成していきました。

かっこいい曲かっこいいライブを構えることなく楽しめていればそれだけで十分なのですが、表面だけを見ているとロックバンドを理解しきれなかったり、誤解してしまったりということがしばしばあります。一般的にミュージシャンの方々はそのあたりをわかってほしいとはもしかしたら思っていないのかもしれませんが、ファンからすれば内面を覗き見ることでより全く違う視点が得られるきっかけにもなるのではと考えています。

 

 

せっかく質問できる機会を頂けたので、音ではわからない彼らの考えていること・感じたこと・意識したこと等、感覚的な部分にフィーチャーしました。一人の客である筆者にとっても新たな発見や痺れる文章がありましたので、皆さんにも共有できたのであれば非常に嬉しく思います。

 

 


自由に楽しく、というのは考え無しには実現しづらいという側面があります。ただそれゆえに、体制を整えて流れを作れば当たり前のように自由で楽しい空間を生み出すことが出来る、という証明のしがいがあるのでしょう。THE KEBABSは楽しむために企むことを繰り返す、用意周到でチャレンジングなロックバンドなのかもしれません。

 

 

 

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