鯉の滝登り

好きなものを、好きなように、好きなだけ。

米津玄師 - BOOTLEG

11/1、米津玄師が自身4枚目のアルバムとなるBOOTLEGをリリースした。ソニーミュージックに移籍してからは初のアルバム作品。

 

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(写真はブート盤。レコードの大きさほどもあるジャケット。先着特典は同じ柄のファイル)

 

 

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山手線渋谷駅1番ホーム(新宿方面)にて。全面米津玄師。

 

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タワーレコード渋谷店。思えば作品を出すごとに展開の規模が大きくなっているように思う。彼の生み出すものに対する期待の膨らみが顕著に表れている。

 

 

 

3枚目のアルバム「Bremen」のリリースからおおよそ2年。彼を取り巻く環境は大きく変化していったように思う。

 

まずタイアップがとても多かった。多いというのはオファー自体も受ける数も、である。「Bremen」にも収録されている4thシングル"アンビリーバーズ"はMIZUNO「WAVE ENIGMA 5」のCMソングに起用された。映画「何者」の主題歌である中田ヤスタカの楽曲"NANIMONO"には「feat.米津玄師」として参加した。

そして今回のアルバムに収録されている"orion""ピースサイン""打上花火"、ハチ名義の"砂の惑星"はすべてタイアップがついている。これだけ並べてみても同じアルバムに収録されているピースとしてあまりに豪華だ。

 

加えて、音楽を構築していくに当たって今までにないくらい人と関わることが多くなったな、とリスナー視点でも強く感じる。

彼はかつて一匹狼というか、それもまた彼の良い所なのだが、曲書けます打ち込みできますMV作れます被写体にもなれます、といったように「完璧な人」というイメージが強かったし(本人が全くもってそう思っていない所が愛らしい)、実際今もその通りである。

 

1人の世界観を纏ったままでも遠くへと進んでいけそうだったが、この2年間は積極的に他者と関わり、時には巻き込んで音を鳴らしてきた。RADWIMPSのツアー「10th ANNIVERSARY LIVE TOUR RADWIMPS胎盤に参加したり、中田ヤスタカやDAOKOとコラボレーションしたりという活動に加え、今作の+(プラス)アーティストの多さからもそれは明確だ。一通りこのアルバムを聴いてみても、過去の作品と比べてあらゆる部分に「他者」の存在をより強く感じた。

 

 

「Bremen」という自分の中の理想郷に辿りついた彼が、今作において米津玄師という音楽を社会に解放した。それは彼が自身の「多様性」や「独創性」を表現できる感性を持っているからこそ成せたことでもあるし、関わった他者が架け橋となって広がった世界でもある。

たった1枚で、様々な価値観が次々と塗り替えられていきそうなほどの革新的な勢いを提示した。1曲ずつ見ていきたい。

 

 

 

*収録曲

01.飛燕

風の谷のナウシカの漫画を読みながら書いたという1曲目。ここ最近の、それこそ「Bremen」以降の米津玄師を端的に表すナンバーとなった。

自分を解放していくことで、自分とは違うものがどんどん入ってくる。これはただの「相乗効果」 を指しているのではなく、彼は米津玄師という1人のアーティストを他者に託していこうとしている。その人たちが米津玄師を、彼の音楽を、どこまで連れて行ってくれるのかということに、米津自身も興味津々な様子が窺える。

 


02.LOSER

ポップをやりたいけどその器じゃない、自分はどこか暗い人間だ。米津玄師レベルでもそうなのか、と言いたくもなるが、このアイデンティティが根底にあるからこそわたしたちは彼の音楽を愛せるのだと思う。

《俺は負け犬》というネガティブなポジショニングを直視した上で、《ただどこでもいいから遠くへ行きたいんだ》とポジティブな地点まで目先を運んでいったところにぐっとくる。

MVではダンスにも挑戦している。自身を表現するとは言っても、こんなに色気を放出してくるとは思わなかった。

 


03.ピースサイン

最新シングルの表題曲。アニメ僕のヒーローアカデミア第2期第1クールののOPに起用された。

以前のレビューにも書いた記憶があるが、幼少期の自分と対話するような気持ちで作ったと語っていた。きっと彼の中でこういう書き方ができるようになったのは、ずっと遠くへ行きたいと思っていた米津少年を「他者」として認識できるようになったからだと考えている。過去を別のものとして考えているのではなく、作品を客観視するための術だ。

 
《もう一度 遠くへ行け遠くへ行けと僕の中で誰かが歌う どうしようもないほど熱烈に》

このフレーズがどうしようもないほど好きだ。

 


04.砂の惑星(+初音ミク)

恥ずかしながらボーカロイドを通ることなく生きてきたので初音ミクにもハチにも精通していないのだが、この楽曲がその界隈に論争を巻き起こしたということは知っている。

初めて聴いたのが「RESCUE」だったので、彼の声で音源化をと願っていたら叶った。

 

ボーカロイドで音楽を作る「ハチ」という名義を別に持っている米津。物理的に同一人物で間違いないのだが、彼は米津玄師とハチに対話をさせた。ある意味自分を解放し、「他者」である自分がいた場所を背負いながらやれることを模索した結果である。

2つの顔を持っていることで悩んだことも多くあるようだが、それに関して素人目では納得のいくところに着地したようにも思える。

 


05.orion

アニメ3月のライオンのエンディングテーマとして書き下ろされたこの曲。

ずっと好きなバンドのメンバーにこう言われてどんな心境だったのだろう。やはりBUMP OF CHICKENが日本の音楽シーンに与える影響というのはとてつもなく大きく、影響を受けたアーティストとして米津も例外ではなかった。特にこの漫画・アニメとBUMP OF CHICKENの結び付きは他者を寄せ付けないほどのものだったこともあり、このビッグバンド(本人たちは今もへなちょこ4人組だと思っているが)の後を担うというのは容易なことではなかったはずだ。

それでも彼はこの作品と、さらに作者である羽海野チカと向き合い、彼女が生み出す繊細なストーリーやキャラクターを楽曲に反映させた。脆い、儚い、だから美しい。

 


06.かいじゅうのマーチ

「ROCKIN' ON JAPAN」2015年8月号から12月号にて掲載されていた米津玄師の連載をまとめた「かいじゅうずかん」のために作っていた楽曲のリアレンジ版。やっと腑に落ちたため収録に至ったようだ。

彼はきっと「かいじゅう」というアイコンに対して物凄くシンパシーを感じている。「かいじゅう」は奇妙に思われて敬遠されがちだけど、実は攻撃なんてしないかもしれない。人間の方が恐ろしい動物かもしれない。実は自分たちだって「かいじゅう」なんじゃないの。

 

このテーマの曲において《あなたと一緒がいい》という歌詞が出てきたことに感動した。かいじゅう目線の言葉で、「他者」を求めるフレーズがあることでこんなに心があたたまるなんて。

 


07.Moonlight

アルバムの中で一番最後に出来た曲。この曲があるのとないのとでは全体の印象が相当違うだろうな、と強く感じたナンバー。ポップというよりはR&B的なサウンドだが、等身大の米津玄師を一番的確に象徴している。

 《本物なんて一つもない でも心地いい》というのはまさにこの作品を作っているときに実感したことなのだろう。今作にはオマージュも意図的にたくさん織り込まれている中で、何が本物かなどということもないだろう、ただ美しくあれば十分だ、と。

 


08.春雷

7月、2日間に渡って東京国際フォーラムで行われたワンマンライブ「RESCUE」で本編ラストを飾っていた曲。普段ライブ中にメモとかは絶対しないので終わってから思い出していくんだけど、春雷のところには「早口だけど柔らかい」と書き残されていた。ざっくりすぎて呆れる。でも口当たりが良いのは確かだ。

ちゃんと音楽を聴いてみると本当にフェニックス。さらにいうとこの頃のフランスのバンドミュージックってこういう感じだったなと思い出す。

「春」に対して「雷」。相反するものの絶妙なバランスの中にオマージュの美しさが映える1曲。

 


09.fogbound(+池田エライザ)

リリース日からスタートするワンマンツアーのタイトルと同じ題の曲。

池田エライザとこの曲を作ると知って、彼女のことはすごく好きなのだけど、音楽となるとどうだろうと半信半疑ではあった。

 

結果、彼女はこの曲に不可欠な存在だった。

 

ある種池田エライザへのオマージュとも取れるし、この雰囲気は彼女の歌声なしでは「BOOTLEG」に仲間入りできる美しさを構築出来なかったであろう。歌詞からは「diorama」期のテイストも感じられる。

 


10.ナンバーナイン

2016年にリリースされた。"LOSER"との両A面シングル。

ルーヴル美術館特別展「ルーヴルNo.9 ~漫画、9番目の芸術~」公式イメージソングとして制作された。

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この絵の前で音声案内99番リピートしましたよねわかります。

このタイアップは米津玄師が本当に最も相応しいと思う。ここまで漫画という文化を背負って高いクオリティで曲を書ける人は他にいないだろう。

漫画が歩んできた歴史に敬意を表し、「古いもの」「新しいもの」という真逆の2つに美しさを見出した。

 

 

11.爱丽丝

飲み仲間でバンド結成。

いつものワンマンでは(アルバムの制作にも携わっているが)中島宏士、須藤優、堀正輝の3人がサポートに入っているから、このメンツは新鮮だ。なにより元パスピエの矢尾拓也がドラムを叩いているのが衝撃。DANDANANDDNAのファイナル公演に米津玄師が見に来ていたのは知っていたが、このような形で一緒に音楽を作り上げてくれたのはなんだかほっとする。

やはり全員バンドマンだから、それぞれのバンドの要素を少しずつ持ち寄って音楽を構築したような印象。飲み会を覗いているような気持ちになる。

 


12.Nighthawks

BUMP OF CHICKENRADWIMPS、更に遡るとU2やコールドプレイのサウンドに対するオマージュであることが公言されている。2サビが終わったところでBUMP OF CHICKENの"天体観測"のリフを入れようと思ったが許可を取る時間がなくて断念した、なんて話もあって心が高鳴る。RADWIMPSは対バン経験があるから、いつかBUMP OF CHICKENとやってほしいなと思うのがファン心理ではある。

自分の中でずっと駆け巡っていた音楽に手伝ってもらいながら、過去の自分を慈しむような、励ますような、そんな1曲。

 


13.打上花火

自身が作詞・作曲・楽曲プロデュース・ボーカルとして参加したDAOKOの3rdシングル"打上花火"のセルフカバー。劇場アニメ「打ち上げ花火、下から見るか? 横から見るか?」の主題歌に使用された楽曲である。

アレンジを変えていても米津玄師の曲だな、という印象はいい意味であまり変わらなかった。コラボしているときはDAOKOを自分の音に乗せているような印象であれも素敵だったのだが、やはりフルで彼が歌うとより米津色を強く感じる。

ちなみに少し話が逸れるがDAOKOが岡村靖幸とコラボした"ステップアップLOVE"、DAOKOがちゃんと岡村イズムと遊んでいて鳥肌が立った。

 


14.灰色と青(+菅田将暉)

ずっと(+?)と書かれており、なかなかビッグゲストなんだろうなと思っていた中での菅田将暉。「feat.菅田将暉」にしなかったところがなんだか嬉しい。歌い手としての米津玄師と菅田将暉が100%並列して存在している。

冒頭にはFrancis and the lightsが発明したボーカル・エフェクトであるプリズマイザーが使用されている(多分)。これも去年とか今年の話だったと思うから、そう考えると革新的な試みだ。

"打上花火"に関しても同じような感想を抱いたが、半分を菅田将暉に歌ってもらって思ったのが「米津玄師の曲は誰が歌っても米津玄師の音楽になる」ということ。それはもちろん「米津玄師が歌わなくても」ということでもある。彼が現在の音楽シーンに張っている根は、見えないところで想像以上に多く、太く、長いのかもしれない。

 

 

 

 

60分超のアルバム、すぐに聴き終えてしまった。

 

「他者」という言葉を多く用いたが、オマージュもたくさん散りばめられている。本物か偽物かなんてどうでもよくて、作品が100%美しくあれば良いという確固たる意志を貫いている。

 

彼はオリジナルファックだとよくいうけれど、あまりそうは思わない。どんなアーティストにも影響を与えた先人や音楽というものはあって、そこからインスパイアされたりオマージュしたりを経て自分のオリジナルが出来上がる。

みんなオリジナル=全くの唯一無二だなんて思っていなくて、影響を受けた要素を合わせて自分のスタンダードを構築した結果がオリジナルなのではないだろうか。この先米津玄師がどんな方法で作品を作っていったとしても、誰に頼ったとしても、すべて米津玄師の「オリジナル」のはずだ。捉え方の違いかな。

 

 

 

「美しい作品を作る」ということに対してすごく才能と意欲のある人だと改めて強く感じた。米津玄師の進化が怖い。それでも彼の音楽に魅せられてしまうのは、本人の芯が強いからだと思う。リスナーが衝撃を受けるような作品を生み出しても、肝心の生みの親はどこか客観的に自分を見つめている。この飄々とした視線がたまらない。

どこか社会に対して劣等感や居心地の悪さを抱いている人に響いていく音楽だ。かつて彼自身がそういった感情で反発しながら生きてきたからかもしれない。寄り添うとも背中を押すとも違うようなシニカルな応援歌が、今の時代を生きるひとりひとりの中に流れていく。

 

 

 

 

米津玄師「BOOTLEG

01.飛燕
02.LOSER
03.ピースサイン
04.砂の惑星(+初音ミク)
05.orion
06.かいじゅうのマーチ
07.Moonlight
08.春雷
09.fogbound(+池田エライザ)
10.ナンバーナイン
11.爱丽丝
12.Nighthawks
13.打上花火
14.灰色と青(+菅田将暉)

 

 

 

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