鯉の滝登り

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椎名林檎トリビュートアルバム アダムとイヴの林檎

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禁断の果実。アダムとイヴが決して口にしてはいけなかったもの。無垢の喪失、裸体への羞恥心、楽園からの追放、最終的な死という運命。

 

しかしこれが人間らしさの原点であり、そんな欲にまみれた醜さに音楽で触れることの出来る人がいる。

 

 

シーナ・リンゴ

 

 

そう、椎名林檎である。

5/23、彼女のトリビュート・アルバム「アダムとイヴの林檎」がリリースとなった。

彼女のデビュー20周年記念の第1弾作品として、「世代を越える」「ジャンルを越える」「国境を越える」「関係を越える(今回限りのコラボレーション)」をテーマに制作された。

 

しかし本作は筆者の知っている「トリビュート・アルバム」とはちょっと違う。いや、だいぶ違う。

トリビュートというのはアーティストの何かの記念に対して捧げられる作品だと思っている。これはおそらく本作もそうであろう。参加するアーティストは尊敬・憧れの意味も込めてアレンジを加えて新たな価値を見出す。これもそう。

 

しかし通して聴いても全然バラバラじゃない。むしろこれはトリビュート・アルバムというよりもコラボレート・アルバムだ。

この現象が起きたのは参加しているアーティストによるところがあると考えている。ボーカリストではなくアレンジャー陣のことだ。具体的に挙げるとすれば亀田誠治冨田恵一伊澤一葉ハマ・オカモト、皆川真人など。彼らは椎名林檎の曲を生み出すのに関わってきた人々である。

「世代を越える」「ジャンルを越える」「国境を越える」「関係を越える(今回限りのコラボレーション)」というテーマを彼らが凌駕し、椎名林檎の作品として還元する役割を果たしている。悪く言えば守りに入ったとも言えるだろうけど、椎名林檎ブランドを貫く作品として着地させるためには最も素晴らしい手段だと思う。リスナーも含めて林檎嬢の掌で転がされている感がたまらない。

 

 

カバーやトリビュート、コラボレーションに関しては人の好みに尽きる部分もあることは否めないため、個人的な感想を1曲ずつ書いていく。中には少し厳しいことも述べるけれど、筆者はここに名を連ねる全員かなり好きなので、そのあたりはご了承願いたい。

 

 

01.正しい街 / theウラシマ'S

1999.2.24発売Al「無罪モラトリアム」収録


Vo. 草野マサムネ from SPITZ
Dr. 鈴木英哉 from Mr.Children
Gt. 喜多建介 from ASIAN KUNG-FU GENERATION
Ba. 是永亮祐 from 雨のパレード

 

1曲目から豪華すぎないか。メロディは椎名林檎だし、それを草野さんが歌うとスピッツになるし、でも刻まれてるリズムは確かにミスチル。あまり意識したことなかったけどJENのドラムってやっぱり特徴的かも。

大物かつ個性の強すぎる演奏を纏めるアレンジャーは亀田誠治。最強。

スピッツミスチルアジカンなんて凄い名前が連なる中に是永さんが入ってることが本当に誇らしい。

草野さんが歌うと一気に物わかりの良い女になる感じがゾクゾクする。人生の中でスピッツミスチルアジカンか雨パレを一度でも通っている人は必ず聴いてほしい。

 

 

02.丸ノ内サディスティック / 宇多田ヒカル&小袋成彬

1999.2.24発売Al「無罪モラトリアム」収録

 

美男美女のキスシーンを間近で見せつけられているような独特な高揚感と背徳感が音の中を漂っている。丸サのカバーはいろいろあるけど、こういうしっとり切ない系ってあまりないパターンなのでは。宇多田ヒカル小袋成彬、センスとセンスの衝突。原曲が好きな人にとっては評価が分かれるところではあるかもしれないが、ファッションでいうとパリコレみたいな感覚。凡人にはついていけないハイセンス、それでも確かにめちゃめちゃかっこいいのはわかる。

小袋成彬は今年の夏フェスに結構出るようなので楽しみだ。

 

 

03.幸福論 / レキシ

1998.5.27発売Sg. & 1999.2.24発売Al「無罪モラトリアム」収録

 

トリビュートじゃないとかいろいろ言ってたけどこれは完全にレキシの曲になっていてたまげた。サビなんて完全に心の中で稲穂振ってる。この曲をレキシに任せてどうなるんだろうとヒヤヒヤしていたけど、いつもにないくらい真面目に歌っていてただの名カバーになっている。サウンドを上手く陽の方向へクレッシェンドし、多幸感に満ちたポップネスを提示した。

あまり強制するのも良くないとは日頃思っているが、星野源バンドメンバーが好きな人たちは絶対に聴いた方がいい。ホーン隊の活躍がすごいよ。

 

 

04.シドと白昼夢 / MIKA

1999.2.24発売Al「無罪モラトリアム」収録

 

MIKA!!!!!!!!

宇多田ヒカルとも交流があるとかないとか。レバノン出身・ロンドン在住の方ですが、日本のアーティストの楽曲もよく聞いているんだそうで。シーナリンゴのことも挙げていた記憶がある。

フランス語の歌詞にアレンジされていて、原曲よりも直接的なエロを醸し出しているのにサウンドがボッサだからクールで爽やかな初夏の訪れすら感じる。Jonathan Quarmbyが関わっていると知って更に震えが止まらない。

ちょっとしたボーナストラック。

 

 

05.茜さす帰路照らされど・・ / 藤原さくら

1999.2.24発売Al「無罪モラトリアム」収録

 

弾き語りじゃないのがもったいないな、と一聴目に思ってしまった。ただ曲とアーティストのマッチングは最高である。最近林檎嬢この曲ライブであんまりやらないイメージあるなあ。

冨田ラボアレンジが良い。"Bite My Nails feat. 藤原さくら"もそうだけど、冨田さんが「SUPERFINE」のときのインタビューで「藤原さんだったらブラックミュージック的な要素ではなく、現代ジャズをフォーキーな方向に寄せたものがたぶん合うだろうと。とにかく声が独特」と述べていたことを思い出した。

 

 

06.都合のいい身体 / 田島貴男(ORIGINAL LOVE)

2009.6.24発売Al「三文ゴシップ」収録曲

 

この曲、タイトルのミスリードがすごいなと何度見ても感心してしまう。あとMVが好き。

元の曲の絢爛豪華なオーケストラがとても好きなのでどんなアレンジになるのか楽しみにしていたのだが、蓋を開けてみればシンプルなジャズロック。田島さんやりおる。

それこそORIGINAL LOVEの初期のようなサウンドが軽快で耳なじみが良い。結構いい意味で厄介な曲だと思うが、林檎嬢らしさをリスペクトしつつ田島さんの世界で新しい"都合のいい身体"を再構築した。

 

 

07.ここでキスして。/ 木村カエラ

1999.1.20発売Sg. & 1999.2.24発売Al「無罪モラトリアム」収録

 

カエラちゃんの歌声とこの曲の組み合わせは正解だと思うけど、正直カラオケ感は否めない。亀田さん伊澤さんBOBOさんをもってしてもここまでか、と思ってしまった。

自分でも何故ここまで落胆しているのかあまり鮮明にわかってはいないのだけれど、おそらく椎名林檎への好きと木村カエラへの好きのベクトルが結構違うんだろうな。どちらもそれぞれ好きなはずだけど、歌ってほしいものが違うというか...アレンジが悪いとかでは決してないはずだ。ただわたしの好みではなかった。真っ直ぐな歌声は本当に素敵なのだけど。

 

 

08.すべりだい / 三浦大知

1998.5.27発売Sg c/w. & 2008.7.2発売Al「私と放電」収録

 

気だるさやねっとり感が見事にはまった。なのに踊りながら歌っている姿が想像出来てしまうんだよな...いつか披露してほしい。

三浦さんの歌声セクシーすぎでは。悩殺された。シンプルな静けさが漂う重低音にこの歌声が融けていくというか沁みていくというか。彼の持ち曲もそこそこ知っているしCDも買っているけれど、ここまでべったり歌えるとは新たな魅力を発見してしまったものだ。いい意味でチャラい。好き。

間奏のジャズ風なパートは原曲リスペクト部分なのかな。

 

 

09.本能 / RHYMESTER

1999.10.27発売Sg. & 2000.3.31発売Al「勝訴ストリップ」収録

 

HIPHOPサイドからのトリビュート。

ノイズが入ることでより曲の持つ重厚感が響き渡る。なによりもこういうアレンジは原曲を非常に客観的に眺めることが出来るので良い。こういう女よくよく考えたらやばいなと、どこか冷静に考察することが出来る。歌詞も変えてきているのに椎名林檎の色気をそのまま纏っているあたりがすごい。

"すべりだい"からの流れもとても良い。重厚感ある楽曲シリーズ。

 

 

10.罪と罰 / AI


2000.1.26発売Sg. & 2000.3.31発売Al「勝訴ストリップ」収録

 

この曲は米津玄師にカバーしてもらいたかったなーなんて贅沢な理想を消しされないでいたけれど、AIさんやっぱりすごいや。

彼女が歌うと一気にゴスペル感が増す。圧倒的歌唱力にひれ伏す。原曲は叫びを投げつけているような印象があったけれど、AIさんのボーカル力によって楽曲に余裕が生まれているし、包容力もすごい。

好き嫌いが分かれるであろう椎名林檎の退廃的な部分がほとんど取り払われていて、ただクールさがそこにある。かっこいい。

 

 

11.カーネーション / 井上陽水


2011.11.2発売Sg. & 2014.11.5発売Al『日出処』収録

 

もう別枠。完全なる井上陽水。もっと言えば神奈月。これ本当に椎名林檎トリビュートなのかと感じてしまうくらいただの井上陽水の曲。

途中テクノ入ってたり意外性で言えば一番だし期待の斜め上を行っているカバー。

さすが陽水さんといえばさすが陽水さんなのだけど。ここまで来るとこういうのもアリなのか。ぜひ一度は聴いてみてほしい。

 

 

12.自由へ道連れ / 私立恵比寿中学

2014.11.5発売Al「日出処」収録

 

一番期待以上だったし、一番凄いなと思った。

アイドルミュージックはそんなに聴かない筆者もこれは好き。自分たちの持ち味をちゃんとわかっているし、疾走感が心地よい。アレンジャーたちの関わりもあってか作品の中でも全然浮いていない。

そもそも歌が上手すぎて引く。アイドルって大体チームに1人上手い子がいれば許せる感覚はあるけど、エビ中みんな上手くないかい。過去どうだったのかあまり分からないのだけど、みんなスキル高い。非常に感動しています。

 

 

13.NIPPON / LiSA

2014.6.11発売Sg. & 2014.11.5発売Al「日出処」収録

 

最も林檎嬢に忠実にトリビュートしているのはLiSAちゃんかもしれない。ただちょっとそれが裏目に出ている感も否めない。

カバーがストレートすぎたのかな。もちろん彼女は歌唱力が爆発的だからなんとなく上手い感じには仕上がるのだけど、どうしてもアニメのOPみたいなところに着地してしまう。ロックヒロインを謳う今だからこそ期待しすぎたかなあ。

好きだからこそこれは勿体ないと思ってしまった。最近彼女の売り方に疑問を感じてしまっているからバイアスもあるのだろうけど。

春ちゃんは最高です。

 

 

14.ありきたりな女 / 松たか子

https://youtu.be/GIeQj_ZaA1Q

2014.11.5発売Al「日出処」収録

 

大団円。女優の凄さをまた一つ知った。

もはや原曲にこういうサウンド含んでなかったかな、みたいな妙な説得力があるのは否めない。ただの女と歌いながらも特別な女感。ただの無敵な女。ミュージカルでも観ているような気分にさせてもらえる。

謎めくよりも安心感を与える彼女の歌声が純粋に好き。この曲をラストに配置したのは大正解だと、何度聴いてもそう思う。

 

 

 

This is 向井秀徳がいないのは残念だけど、個人的には満足なアルバムでした。

 

 

 

椎名林檎の魅力は己が日本人であること、女性であることに誇りを持っている点だと思っている。

彼女の詞は英訳しづらい。日本語特有の言い回しや美しさを理解している証でもある。

そして彼女自身が美しい。

 

一寸女盛りを如何しやう
この侭ぢや行き場がない
花盛り色盛り真盛りまだ

 

椎名林檎さん、20周年おめでとうございます。

 

 

 

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